継ぐ人インタビュー 受け継ぐ
Vol. 14 2018.5.17 up
継承とは、次の世代に被爆の実相を冷静に、正確に伝えていくことではないでしょうか。
山岡 美知子Michiko Yamaoka
被爆体験伝承者1期生
今、ヒロシマを語り継いでいる人たちは何を想い、何を伝えようとしているのでしょうか。
ピースボランティアとして平和記念資料館や平和公園をガイドし、被爆体験伝承者1期生として国内外の人たちに被爆の実相を伝えて続けている山岡美知子さん(67)。
活動のきっかけや、若い人たちに向けたメッセージなどを伺いました。
活動のきっかけ
さきほどは被爆体験伝承講話をありがとうございました。
被爆の実相に関する情報量と熱意を持ったプレゼンに圧倒されました。
継承活動を今まさに実践されている山岡さんですが、活動を始められたきっかけを教えて頂けますか。
もともと私は普通の主婦でした。
主人が亡くなったことをきっかけに、周囲の勧めもあって、2008年から原爆ドーム周辺で被爆の実相を伝えるボランティア活動をはじめました。
被爆体験伝承者としては2015年から活動をしています。
以前から平和に関するボランティアには興味があったのでしょうか。
いいえ。広島に生まれ、被爆2世でありながらボランティア活動に携わるまでは平和活動に全くの無関心でした。原爆のことも詳しく知りませんでした。
被爆した母から話を聞いた経験はありましたが、さほど関心はありませんでした。
ボランティアの活動を通して平和活動に関心を持ち始めた、ということですね。
はい。そうです。ボランティア活動を始めて、被爆の実相について勉強をすればするほど、詳しい情報が知りたいと思うようになりました。
そして知れば知るほどこれは後世にきちんと伝えていかないといけないという気持ちになりました。
戦争や歴史についても自分がしっかり学んで考えていかなくてはと思い、人一倍勉強をしたと思います。
山岡さんは英語でもガイドをされていらっしゃるということですが、もともと英語は得意だったのでしょうか。
いいえ。英語は苦手で全く話せませんでした。58才から勉強を始めました。
私の高校の時の英語の成績は10段階中の3です。
本当に苦手だったのですが、資料館や公園でボランティアをしているとやはり海外の方からも質問をされることが多く、NHK基礎英語のテキストを片手に、ラジオを聞きながら猛勉強をしました。
活動内容について
講話の中で「常に新しい情報を取り入れながら、伝承活動をしていきたい。」と仰っていましたが、その想いの背景を教えてください。
伝承者は、客観性をもって正しく情報を伝えていくことが重要であると考えています。
話を膨らませれば興味をもって頂くような「原爆物語」ではいけないと思うのです。
例えば
「原爆による熱線は3000-4000度です。鉄の溶ける温度は1500度。皆さん考えてみてください。どのくらいの温度だったでしょうか。」
・・・と、ここで話を止めません。聴衆の想像にお任せしてしまうことになるからです。
「熱線が出た時間は0.2~3秒。一瞬です。熱線があたっていない場所はやけどにはなりません。」と事実を伝えていかないといけないと思っています。
新しい情報をインプットするために、広島に関することが書かれた新聞やインターネットの記事には常に目を通すようにしています。
ただし、掲載されている情報は鵜呑みにせず、最終的に自分が調べたことを資料館の学芸員などに確認をしていただき、自分の話に取り入れるように心がけています。
被爆体験を「物語」にするのではなく、史実を客観的に見て「被爆の実相」として伝えていくということですね。
はい。被爆者の方は、当事者ですので、お話はありのままで良いと思います。
ですが、伝承者の場合は、被爆者のお話をそのまま伝えて物語にしてはいけない。
継承とは、次の世代に被爆の実相を冷静に正確に伝えていくことではないでしょうか。
実相の継承以外の、被爆者の「想い」を継承するという点に関しては、どうお考えですか。
そうですね。活動し始めた当初は、被爆者の想いを伝えることが出来る、と思っていました。
しかし、現実はなかなか難しいことだと実感しています。
まず自分は体験をしていません。被爆体験を聞くだけで、被爆者の想いまで継承できているのか不安になることがあります。
ただ、私の話を補うために、伝承活動で使う資料の中に被爆者ご自身が描いた絵を多く取り入れています。
その絵を通して、話を聞く人たちが被爆者の想いを感じ取っていただけないだろうかと考えています。
若い人たちへのメッセージ
平和に関して、無関心な人たちに関心を持たせるような働きかけはどうしたらよいと思いますか。
そうですね。まずは「観光で広島へ行ってみる?」と友達を誘って広島に来てみるのはいかがでしょうか。
原爆ドームや平和記念資料館を訪れたら、無関心な人でも何かしら思うことが出てくると思います。
そして、「あなたは平和についてどう思う?」とか、「もし戦争が起こったらどうする?」など問いかけてみるといいのではと思います。
最後に、山岡さんが若い世代に伝えていきたいメッセージを教えてください。
戦争や平和といったテーマに関して無関心にならないこと。自分にとって平和とはなにか、自分には何ができるのかを考え始めることが大切だと思います。
そしてもう一つは、冷静さと客観性を常に持ち続けることです。
特に、インターネットで簡単に情報を検索できる今の社会の中ではとても大事なことです。
人から聞いたり、自分で調べたりした情報をすべて正しいと思わず、必ず一度懐疑的に捉えて考え続けてほしいと思います。
2018年5月 取材
このサイトについて
「ヒロシマの記憶を継ぐ人インタビュー」は、第三世代が考えるヒロシマ「 」継ぐ展から生まれたプロジェクトです。
2015年から被爆者や平和活動を行っている人たちにインタビューを行っています。
今、ヒロシマを語り継いでいる人たちは何を想い、何を伝えようとしているのでしょうか。
そして、戦争を体験したことのないわたしたちは、何を学び、考えていけばよいのでしょうか。
知らなかったこと、深く考えてみようと思ったこと、現在とつなげて気づいたこと、そして、これからの未来について思うこと。
インタビューの記事をきっかけに、身近な人たちと話し合うきっかけとなることを願っています。